- 繊維業界の単位が多い理由│要約
- はじめに│同じ布の話なのに、なぜ単位が変わるのか
- 「単位」と呼ばれているものは、実はすべて同じ種類ではない
- 図解│糸が製品になるまでに、ものさしはこう変わる
- 糸の段階│重さだけでなく「太さ」を管理する
- 織物を作る段階│長さ・本数・密度が必要になる
- 同じ「尺」でも長さが違う│鯨尺と曲尺
- 生地の重さ│kg・目付・オンス・匁は何が違うのか
- 目付が同じなら、同じ生地になるのか
- 取引の段階│売るものが変われば、価格の単位も変わる
- 反・疋・ロール│一巻きの長さは必ず同じとは限らない
- 玉・梱・俵│重さだけでなく荷姿も含んだ単位
- 綛・本・丁│作業の都合から生まれる数え方
- なぜ全部メートル法に統一しないのか
- 単位が多いことは、いい加減という意味ではない
- 繊維業界の単位で誤解されやすいポイント
- 知らない単位に出会ったときの確認方法
- 繊維業界の単位は、工程と産地が重なった「地層」
- まとめ│単位を見るときは、数字より先に基準を見る
- よくある質問(FAQ)
- あわせて読みたい記事
- 次回|繊維産地とは何か
繊維業界の単位が多い理由│要約
繊維業界では、
・メートル
・インチ
・ヤード
・ポンド
・オンス
・匁(もんめ)
・デニール
など、さまざまな単位や表し方が使われています。
これだけを見ると、
「なぜ一つの単位に統一しないのか」
と思うかもしれません。
しかし、繊維業界の単位が多いのは、古い単位が無秩序に残っているからだけではありません。
測る対象と、数字によって判断したいことが変わるからです。
糸の段階では、重さや太さを知りたい。
織物や編物を作る段階では、長さ、幅、糸の本数、密度を知りたい。
染色・整理加工では、加工する生地の長さや重さ、仕上がり幅を管理したい。
生地の取引では、m単価、kg単価、反単価など、何を基準に価格を決めるのかが重要になります。
さらに、その中には、
・メートル法
・ヤード・ポンド法
・尺貫法(しゃっかんほう)
・素材ごとの表示方式
・産地や工場に残る作業上の数え方
が重なっています。
繊維業界の単位は、数字のルールであると同時に、工程・設備・産地・取引の記憶でもあります。
この記事では、個々の換算値を丸暗記するのではなく、
その単位は、何を測るために使われているか
という視点から、繊維業界の単位が多い理由を整理します。
はじめに│同じ布の話なのに、なぜ単位が変わるのか
同じ一枚の生地につながる話をしているはずなのに、繊維業界では、工程が変わるたびに数字の言葉も変わります。
たとえば、
糸屋さんは、kgや番手で話し、番手の成り立ちや海外規格の話ではポンドも登場する。
機屋(はたや)さんは、糸の本数や打ち込み、筬(おさ)の密度で話す。
染工場や整理加工場は、mやkg、生地幅で話す。
生地屋さんやアパレルは、目付やオンス、m単価、反単価で話す。
和装や一部の織物産地では、鯨尺(くじらじゃく)や鯨寸(くじらすん)が出てくる。
さらに糸の準備工程では、
・綛(かせ=すが)
・本(ほん)
・丁(ちょう)
・玉(たま)
・梱(こり : 現場では「こうり」と呼ばれる例もあります)
・俵(ひょう : 「一俵」は、いっぴょう)
といった、重さだけでは説明しきれない数え方が使われることもあります。
初めて聞く人からすれば、途中で話が分からなくなるのも無理はありません。
ただし、これらは誰かがわざと難しくしたものではありません。
それぞれの現場が、目の前の仕事を管理しやすいように使ってきたものさしが、工程をまたいで同時に見えるようになった結果です。
「単位」と呼ばれているものは、実はすべて同じ種類ではない
繊維業界の単位を理解しにくくしている理由の一つに、
性質の異なる数字が、まとめて「単位」と呼ばれていることがあります。
大きく分けると、少なくとも次のような種類があります。
長さや重さを直接測る単位
・m
・cm
・mm
・インチ
・ヤード
・g
・kg
・ポンド
・匁(もんめ)
これは、長さや重さそのものを測る単位です。
糸の太さを表す方式
・綿番手
・メートル番手
・毛番手
・麻番手
・デニール
・テックス
・デシテックス
これらは、糸の直径をそのまま測っているわけではありません。
一定の重さでどれだけの長さになるか、または、一定の長さでどれだけの重さになるかによって、糸の太さを表しています。
生地の規格や状態を示す管理項目
・経糸密度(たていとみつど)
・緯糸密度(よこいとみつど)
・打ち込み
・筬密度(おさみつど)
・生地幅
・仕上がり幅
目付とは、生地の一定面積当たり、または生地の全幅を含む一定長さ当たりの重さです。
密度や打ち込みは、一定の長さの中に何本の糸が入っているかを表します。
つまり、これらは単なる重さや本数ではなく、基準となる面積や長さに対する値、または生地の規格を示しています。
荷姿や作業量、取引量を表す数え方
・ロール
・ケース
・玉(たま)
・梱(こり)
・俵(ひょう)
・綛(かせ)
・丁(ちょう)
・枚
これらは、必ずしも長さや重さだけを表すものではありません。
生地をどのようなまとまりで扱うのか、糸をどのような荷姿(にすがた)で受け渡すのか、一度の作業でどれだけ処理するのか、といった現場上の区切りを表す場合があります。
繊維業界で「単位が多い」と感じるとき、実際には、
測定単位、表示方式、管理数値、数え方が、同じ会話の中に混ざっている
ことが少なくありません。
図解│糸が製品になるまでに、ものさしはこう変わる
一枚の生地ができるまでの流れに沿って見ると、単位が変わる理由が分かりやすくなります。
【原料・糸】
(見るもの)
・原料や糸の重さ
・糸の太さ
・巻かれている量
・使用する糸の本数
(使われる例)
・g
・kg
・ポンド
・番手
・デニール
・テックス
・本
・玉
・梱
↓
【糸準備・整経】
(見るもの)
・必要な経糸(たていと)の本数
・糸の長さ
・整経する幅
・綛上げや巻き取りの作業量
(使われる例)
・m
・本
・綛
・丁
・玉
↓
【製織】
(見るもの)
・生地幅
・経糸と緯糸(よこいと)の本数
・糸の密度
・筬の細かさ
・織り上がった長さ
(使われる例)
・cm
・インチ
・鯨寸
・曲寸(かねすん)
・本/cm
・本/インチ
・本/鯨寸
・羽(は)
・m
※なお、編物を作る編立(あみたて)の工程でも、ウェール、コース、ゲージなどの独自の基準が使われます。本記事では、産地ごとの長さの基準が特に現れやすい織物の織布・製織工程を中心に説明していきます。
↓
【染色・整理加工】
(見るもの)
・加工する生地の長さ
・加工する生地の重さ
・生地幅
・仕上がり後の寸法
・生地の面積当たりの重さ
(使われる例)
・m
・kg
・cm
・g/m²
・g/m
↓
【生地の取引】
(見るもの)
・販売する長さ
・一巻きのまとまり
・生地重量
・価格計算の基準
(使われる例)
・m
・kg
・反
・疋
・ロール
・m単価
・kg単価
・反単価
↓
【縫製・製品】
(見るもの)
・製品寸法
・裁断枚数
・完成品の数量
(使われる例)
・cm
・mm
・号
・サイズ
・枚
同じ材料を扱っていても、工程が変われば、管理したいものも変わります。
単位が次々に入れ替わっているのではなく、工程ごとに必要なものさしが追加されている、と考えた方が実態に近いのです。
糸の段階│重さだけでなく「太さ」を管理する
原料や糸の取引では、まず、材料の重さを把握する必要があります。
国内における原料や糸の取引では、gやkgなど、法定計量単位である重さの単位が基本になります。
一方、海外規格や綿番手などの成り立ちを理解するときには、ポンドという単位も登場します。
しかし、糸を使って生地を作るためには、総重量だけでは足りません。
同じ1kgの糸でも、細い糸なら長くなり、太い糸なら短くなります。
そこで必要になるのが、番手やデニールなど、糸の太さを表す方式です。
糸は繊維が集まってできており、毛羽や繊維間の隙間がある他、断面も必ずしも一定ではありません。
そのため、直径だけで太さを一律に管理するよりも、長さと重さの関係から表す方が実用的です。
そのため、
・一定の重さで、どれだけ長くなるか
・一定の長さで、どれだけ重くなるか
という関係から、糸の太さを表してきました。
ただし、この考え方は素材や分野によって異なります。
綿番手では数字が大きいほど細くなる一方、
デニールでは数字が大きいほど一定の長さ当たりの重さが大きくなり、太くなります。
この詳しい仕組みは、ITomapの記事
「番手がわからないのは、あなたのせいじゃない─番手とは?繊維業界で使われる糸の太さの単位をわかりやすく解説」
で扱っています。
そのため、今回の記事で押さえたいのは、番手の計算方法そのものではありません。
原料や糸の段階では、重さだけでなく、長さと重さの関係から「糸の太さ」を知る必要がある
という点です。
織物を作る段階│長さ・本数・密度が必要になる
糸が織物になる段階では、重さや番手だけでなく、長さ、幅、本数、密度が重要になります。
織物は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交差させて作ります。
そのため、機屋(はたや)さんは、
・経糸を全部で何本使うか
・どれくらいの幅に並べるか
・一定の長さの中に何本入れるか
・緯糸をどれくらい打ち込むか
・どの筬(おさ)を使うか
を管理します。
筬(おさ)とは、薄い板状の部材を櫛(くし)の歯のように並べたもので、経糸の間隔を整え、緯糸を打ち込むために使う織機の部品です。
隙間を作っている薄い板状の部材を筬羽(おさば)と呼び、筬羽と筬羽の間にある、経糸を通す隙間を
筬目(おさめ)と呼びます。
筬の細かさは、
・1cmの中に何羽あるか
・1インチの中に何羽あるか
・1鯨寸の中に何羽あるか
などで表され、一定の長さの中にいくつ筬目があるかを「○羽/鯨寸」や「○羽/cm」と表します。
生地の密度も同じです。
織物の密度は、本/cmや、本/インチなどで表されますが、産地や織物の品種、使用する設備によっては、鯨寸や曲寸を基準にする場合など、さまざまです。
産地によっては、「寸」といえば、=鯨寸を指す場合や、
筬密度は「○羽/寸(鯨)」を使いつつ、
緯糸密度は「○本/曲2分」で表し、
同じ一枚の織物の設計でも、筬や経糸側と、緯糸側で異なる基準/両方の単位を使う設計例もあります。
ただし、単位は産地名だけで一律に決まるものではなく、織物の品種、機屋、経糸・緯糸、使用する筬や織機の規格によって異なります。
ここで気を付けたいのは、数字だけでは密度を判断できないということです。
たとえば「80本」と書かれていても、
・1cm当たり80本
・1インチ当たり80本
・1鯨寸当たり80本
では、実際の密度がまったく違います。
何本あるかだけでなく、
どの長さの中に、その本数が入っているのか
まで確認する必要があります。
「吋」はインチのこと│「寸」と間違えないように注意
古い設計書や筬の表示などでは、インチを「吋」と書く場合があります。
吋は「インチ」と読み、
1吋=1インチ=2.54cm
を表します。
見慣れない人は、「吋」に使われている「寸」の字から、曲寸や鯨寸の仲間だと思うかもしれません。
しかし、
・吋=インチ
・曲寸=曲尺の1寸、約3.03cm
・鯨寸=鯨尺の1寸、約3.79cm
であり、それぞれ基準となる長さが異なります。
設計書に「80本/吋」などの表記があれば、ここでの「吋」は寸ではなく、インチを指しています。
筬に「吋23羽」と打刻があれば、1インチ間に23羽がある筬ということになります。
「寸」と「吋」は見た目が似ていますが、同じ長さではありません。
数字だけでなく、その後ろに付いている文字まで確認することが大切です。
同じ「尺」でも長さが違う│鯨尺と曲尺
繊維業界の単位が分かりにくいことを象徴する例が、鯨尺(くじらじゃく)と曲尺(かねじゃく)です。
曲尺は「かなじゃく」ではなく、「かねじゃく」と読みます。
字面から「きょくじゃく」や「かなじゃく」と読みたくなりますが、建築や大工仕事で使われてきた長さの基準を、曲尺(かねじゃく)と呼びます。
一方、反物(たんもの)や着物など、布を測る分野で使われてきたのが鯨尺です。
曲尺では、1尺=約30.3cmです。
鯨尺では、1尺=約37.9cmです。
鯨尺の1尺は、曲尺の1尺2寸5分、つまり曲尺の約1.25倍に当たります。
同じ「1尺」という言葉でも、大工さんが使う1尺と、和裁や織物の現場で使う1尺では、約7.6cmの差があります。
さらに、それぞれの1尺を10分の1にしたものが寸(すん)です。
曲尺を基準にした曲寸(かねすん)は、
1寸=約3.03cmです。
鯨尺を基準にした鯨寸(くじらすん)は、
1寸=約3.79cmです。
そのため、「寸」とだけ書かれていても、曲寸なのか鯨寸なのかによって長さが変わります。
これは、単位の名前だけを覚えても足りないことを示しています。
「尺は何cmか」と考える前に、どちらの尺なのかを確認する。
これが必要です。
現在の日本では、長さや質量を取引または証明に用いる場合、原則として法定計量単位を使用する必要があります。
鯨尺やインチなどを併記する場合も、法定計量単位を主たる表記とし、あくまで参考値であることが分かる形にしなければなりません。
一方、社内の工程管理など、取引や証明に当たらない内部的な計量では、非法定計量単位を用いることができます。(経済産業省)
つまり、対外的な取引や証明では法定計量単位が必要になる一方、製品設計や工程管理の中には、以前から使われてきた「ものさし」が残っている場合があるのです。
生地の重さ│kg・目付・オンス・匁は何が違うのか
生地の重さについても、いくつかの見方があります。
まず、kgやgは、生地そのものの重さを表します。
一方、目付(めつけ)は、生地を一定の面積や長さで区切り、その範囲がどれだけ重いかを見る考え方です。
代表的なものに、
・平米目付(へいべいめつけ):g/m²
・幅目付(はばめつけ):g/m
があります。
たとえば、生地全体が10kgあると聞いても、生地の幅や長さが分からなければ、重い生地なのか、単に量が多いだけなのかは判断できません。
しかし、1m²当たり何gかが分かれば、生地同士の重さを比較しやすくなります。
ここで重要なのは、
目付は「生地全体の重さ」ではなく、一定の面積や長さを基準にした重さ
だということです。
幅目付は、生地の全幅を含む長さ1m当たりの重量です。
そのため、生地幅が異なるもの同士を、幅目付だけで比較するときは注意が必要です。
たとえば、同じg/mでも、
幅が違えば、実際のg/m²は変わるからです。
デニムで使われるオンス
デニムなどでは、オンスという表記をよく見かけます。
この場合のオンスは、単に一枚の生地全体が何オンスあるかを示しているわけではありません。
一般にデニムの「○オンス」は、
1平方ヤード当たりの生地重量
を表しています。
つまり、オンスという重さの単位に、平方ヤードという面積の基準が組み合わされています。
目付と同じように、生地の面積当たりの重さを見ているのですが、基準となる面積がm²ではなく、平方ヤードになっています。
匁は、何に対する重さなのか
匁(もんめ)は、尺貫法で使われてきた重さの単位で、
1匁=3.75gです。
ただし、繊維業界で匁が出てきたときは、3.75gを掛けるだけでは理解できない場合があります。
たとえばタオルでは、匁数が1枚ではなく、一般に1ダース、つまり12枚分の重さを表す場合があります。
「200匁のタオル」であれば、200匁がタオル1枚の重さとは限りません。
何枚分を基準にしているのかを確認する必要があります。
同じ匁という言葉でも、
・重さそのもの
・一定枚数や一定のまとまりに対する総重量
など、何を基準にしているかによって、数字の意味が変わります。
匁そのものは、重さを表す単位です。
変わるのは、その匁数が何枚分、またはどのまとまりに対する総重量なのかという基準です。
これも、繊維業界の単位を見るときに、
数字の後ろに隠れている基準を確認する必要がある例です。
匁が出てきた時には、その匁数が何枚分、またはどのまとまりに対する重さなのかを確認する必要があります。
目付が同じなら、同じ生地になるのか
目付は、生地の重さを比較するために便利な数字です。
ただし、目付が同じだからといって、生地の厚さ、風合い、見た目、性能まで同じになるわけではありません。
同じ目付でも、
・使用している繊維の種類
・糸の太さ
・糸の密度
・織り方や編み方
・撚りの強さ
・起毛や毛焼きなどの表面加工
・生地に含まれる水分
などによって、触ったときの厚みや硬さは変わります。
目付は、生地を理解するための重要な数字ですが、生地のすべてを表す数字ではありません。
これは番手や打ち込みについても同じです。
一つの数字だけで生地を決めるのではなく、複数の規格を組み合わせて見る必要があります。
取引の段階│売るものが変われば、価格の単位も変わる
繊維業界では、工程ごとに取引するものが変わります。
原料や糸では、重さを基準に取引しやすいため、kg単価が使われます。
生地では、長さを基準に取引しやすいため、m単価が使われます。
加工では、処理した長さによって価格を決める場合もあれば、重量によって決める場合もあります。
完成した製品では、枚単価や個単価になります。
たとえば、
・糸:1kg当たりいくら
・生地:1m当たりいくら
・染色・整理加工:1mまたは1kg当たりいくら
・反物:1反当たりいくら
・縫製品:1枚当たりいくら
というように、同じ製品につながる取引でも、価格を割る基準が変わります。
単位が多いのは、
工程ごとに売買しているものの状態が違うからでもあります。
糸屋さんは、糸の重量を基準にした方が管理しやすい。
生地屋さんは、生地の長さを基準にした方が販売しやすい。
加工場は、実際に機械へ通した長さや、処理した重量を基準にした方が加工量を把握しやすい。
縫製工場や製品販売では、完成した枚数が必要になる。
それぞれが別のものを見ているため、価格の単位も変わるのです。
反・疋・ロール│一巻きの長さは必ず同じとは限らない
生地は、一巻き、二巻きと数えるだけでなく、反(たん)、疋(ひき)、ロールなどで数えられることがあります。
ただし、反は、どの分野でも必ず同じ長さを表す単位ではありません。
和装では、着物一着分に必要な反物を一反とする考え方があります。
一方、洋装用の生地や工業的な織物では、工場や品種ごとに巻き取る長さが異なることがあります。
疋(ひき)についても、和装分野などでは二反を一疋とする例がありますが、用途や品目によって扱いが異なります。
そのため、
「一反は何mですか」
という質問に対して、繊維業界全体で共通する一つの数字を答えることはできません。
確認すべきなのは、
・どの種類の生地か
・どの工程の反か
・仕上げ前か、仕上げ後か
・その会社では何mを一反としているか
・一着分という意味か、一巻きという意味か
です。
反は、伝統的には布の長さや数量を表す単位ですが、実際の長さは品種や用途によって異なります。
現在の現場では、
生地を一つのまとまりとして扱うための数え方
として使われている場合があります。
玉・梱・俵│重さだけでなく荷姿も含んだ単位
糸や原料の周辺では、
・玉(たま)
・梱(こり)
・俵(ひょう)
・ケース
などの言葉が使われることがあります。
これらは、単にkgを別の言い方にしたものとは限りません。
糸や原料が、
・どの程度の重さにまとめられているか
・何本のチーズやコーンが入っているか
・どの荷姿で運ばれてくるか
・どの単位で発注や染色を行うか
といった、包装や作業のまとまりを含んでいます。
同じ言葉でも、素材、産地、会社、時代、荷姿によって換算や運用が異なる可能性があります。
そのため、この記事では玉、梱、俵を、繊維業界に残る荷姿・取引単位の例として紹介するにとどめます。
具体的な換算や、綛(かせ)、本、丁(ちょう)との関係については、今後、綛上げや整経を扱う記事の中で、特定の現場における一例として整理します。
今回の記事で大切なのは、
現場で使われる単位には、重さだけでなく「どのような状態で届き、どのように作業するか」が含まれている
という点です。
綛・本・丁│作業の都合から生まれる数え方
綛上げや整経など、糸を準備する一部の産地・工場では、重量だけでなく、
・何綛作るか
・何本の糸をまとめるか
・何丁取るか
・一玉から何丁分を作るか
といった数え方が使われることがあります。
これは、糸を単なる材料の重さとしてではなく、次の作業へ渡すための状態として見ているからです。
たとえば1kgの糸があったとしても、
・どのようなまとまりに分けて巻くのか
・一つの綛をどの長さにするのか
・染色や整経で何回分の作業になるのか
によって、現場での意味は変わります。
kgは材料量を表せますが、作業回数までは表せません。
そこで、綛、本、丁などの作業上の数え方が必要になります。
これは単位が古いから残っているというより、
kgだけでは、現場の仕事量や糸の状態を表しきれない
ために使われているものです。
なぜ全部メートル法に統一しないのか
「cmやkgに統一すれば、もっと簡単になるのではないか」
という疑問は自然です。
日本国内で、長さや質量などの数量を取引または証明に用いる場合は、原則として法定計量単位を使用します。
それでも現場から、インチ、ポンド、鯨寸、番手、匁などが完全には消えていません。
主な理由は、次のとおりです。
海外の規格や取引があるから
繊維産業は、原料、糸、生地、機械、製品を国境を越えて取引しています。
海外の規格にインチやヤード、ポンドが使われていれば、日本の現場でも、その基準を読める必要があります。
過去の設備や設計が、その単位を基準に作られているから
織機、筬、整経設備、設計書、過去の製織記録などが、鯨寸やインチを基準に作られている場合があります。
数字だけをcmへ換算しても、設備の目盛りや過去の設計との対応がかえって分かりにくくなることがあります。
素材ごとに蓄積された知識があるから
「この番手なら、この密度」
「この筬なら、この糸使い」
「この目付なら、この用途」
というように、現場には数字と製品を結び付けた経験が蓄積されています。
単位を変えることは、数字の表記を変えるだけではありません。
過去の記録、経験、機械設定、取引慣行とのつながりも、同時に変えることになります。
産地や工程内の共通語になっているから
単位は、正確な長さや重さを伝えるだけでなく、
「この現場では、どの基準で生地を設計しているか」
を示す共通語でもあります。
ある織物産地では鯨寸が使われる例があり、また別の産地の織物研究資料では、筬密度を羽/鯨寸、緯糸密度を本/曲寸で表した設計が確認できます。
単位には、その産地がどのような設備と設計方法を使ってきたかが残っているのです。
単位が多いことは、いい加減という意味ではない
繊維業界の単位が多いと、
「会社や産地ごとに好き勝手な数字を使っている」
ように見えるかもしれません。
しかし、実際には、それぞれの数字に役割があります。
・糸の太さを管理する
・必要な糸量を計算する
・生地幅を決める
・織り密度を設計する
・加工量を把握する
・製品の重さを比較する
・価格を計算する
・過去の製造条件を再現する
問題は、単位が複数あることそのものではありません。
どの基準を使っているかが共有されないまま、数字だけが伝わることです。
たとえば、
・80本
・200匁
・14オンス
・1反
・1尺
という数字だけでは、十分な情報になりません。
確認すべきなのは、
・80本は、何cmまたは何インチ当たりなのか
・200匁は、何枚分またはどのまとまりに対する重さなのか
・14オンスは、どの面積を基準にしているのか
・1反は、実際に何mあるのか
・1尺は、曲尺なのか鯨尺なのか
です。
単位が曖昧なのではなく、前提証券となる基準が、省略されていると曖昧になるのです。
繊維業界の単位で誤解されやすいポイント
誤解1│数字が大きければ、大きい・太い・重
単位によって、数字の増え方が表すものは異なります。
綿番手では、数字が大きいほど糸が細くなります。
デニールでは、数字が大きいほど糸が太くなります。
オンスや平米目付では、一般に数字が大きいほど面積当たりの生地重量が増えます。
数字だけでなく、その表示方式がどちらの方向を見ているのかを確認する必要があります。
誤解2│同じ「尺」なら同じ長さ
曲尺の1尺は約30.3cmです。
鯨尺の1尺は約37.9cmです。
同じ尺でも、基準が違えば長さも変わります。
誤解3│目付が同じなら、厚さも同じ
目付は一定面積当たり、または生地の全幅を含む一定長さ当たりの重さです。
繊維の種類、糸の太さ、組織、加工方法が違えば、同じ目付でも厚さや風合いは変わります。
誤解4│反は決まった長さ
反は、生地をまとめて扱う数え方として使われることがあり、品種や用途、会社によって実際の長さが異なります。
誤解5│古い単位は、すべて不要
現在の取引や表示ではメートル法への整理が必要ですが、古い単位が基準となった設備、設計書、製造記録、産地の知識まで不要になるわけではありません。
重要なのは、古い単位を無条件に残すことでも、すべて消すことでもありません。
現在の単位と繋げて考え、違う現場の人にも伝わる状態にすることです。
知らない単位に出会ったときの確認方法
繊維業界で知らない単位や数字に出会ったときは、すぐに換算表を探す前に、次の点を確認してみてください。
1.何を測っているのか
・長さ
・重さ
・糸の太さ
・生地の密度
・面積当たりの重さ
・数量
・作業量
・荷姿
まず、数字の対象を確認します。
2.何を基準にしているのか
・1cm当たり
・1インチ当たり
・1鯨寸当たり
・1m²当たり
・1平方ヤード当たり
・1枚当たり
・1ダース当たり
分母となる基準を確認します。
3.どの工程で使われているのか
糸の取引、整経、製織、染色、整理加工、生地販売、縫製では、同じ言葉でも使い方が異なる場合があります。
4.どの素材や産地で使われているのか
綿、毛、絹、麻、化学繊維では、糸の太さの表し方が異なります。
織物産地によっても、インチ、鯨寸、曲寸など、使われる基準が変わることがあります。
5.その数字は固定値なのか、現場内の取り決めなのか
反、玉、梱、綛、丁などは、素材、荷姿、会社、産地によって運用が異なる可能性があります。
一般的な換算値だけで判断せず、実際の取引先や作業現場に確認する必要があります。
繊維業界の単位は、工程と産地が重なった「地層」
繊維業界には、さまざまな時代と地域から生まれたものさしが残っています。
・現在の公的な基準となるメートル法
・海外の原料、機械、規格とつながるヤード・ポンド法
・和装や古くからの織物設計に残る尺貫法
・素材ごとに発達した番手やデニール
・産地ごとの筬や打ち込みの基準
・工場や商流ごとの荷姿と作業単位
これらは、すべて同じ時期に、同じ目的で作られたものではありません。
糸を作る人、生地を織る人、染める人、仕上げる人、販売する人が、それぞれの仕事に必要な基準を使ってきました。
新しい制度や設備が入っても、それ以前の設計、記録、経験がすべて消えるわけではありません。
その上に新しい単位が重なり、地層のように残っています。
そのため繊維業界の単位を見ると、
・どの国の技術とつながっていたのか
・どの素材を扱ってきたのか
・どの設備を使ってきたのか
・どのような単位で取引してきたのか
・産地内でどのように知識を共有してきたのか
まで見えてくることがあります。
繊維業界の単位は、換算のための数字であると同時に、産業の履歴書でもあるのです。
まとめ│単位を見るときは、数字より先に基準を見る
繊維業界の単位が多いのは、業界がいい加減だからではありません。
糸、生地、加工、取引、製品へと工程が進むたびに、測る対象と判断したいことが変わるからです。
さらに、
・国
・時代
・素材
・設備
・産地
・取引方法
の異なるものさしが、現在まで重なって残っています。
すべての換算値を一度に覚える必要はありません。
知らない単位に出会ったときは、まず、
何を測っているのか
何を基準にしているのか
どの工程で使われているのか
を確認してください。
「1尺は何cmか」ではなく、曲尺なのか鯨尺なのか。
「80本」ではなく、何cm、何インチ、何寸の中の80本なのか。
「200匁」ではなく、何枚分、またはどのまとまりに対する200匁なのか。
「1反」ではなく、実際に何mあるのか。
数字の後ろにある基準が分かれば、複雑に見えていた単位にも役割が見えてきます。
繊維業界の単位を理解する入口は、換算表を丸暗記することではありません。
その単位を使っている人が、何を見て、何を判断しようとしているのかを知ることです。
よくある質問(FAQ)
- Qなぜ繊維業界には、これほど多くの単位があるのですか?
- A
糸、生地、染色・整理加工、取引、製品では、測る対象が異なるためです。
さらに、メートル法、ヤード・ポンド法、尺貫法、素材ごとの番手、産地や工場ごとの作業単位が重なって残っています。
- Q番手とデニールは、どちらも糸の太さですか?
- A
どちらも糸の太さを表しますが、考え方が異なります。
綿番手などは、一定の重さでどれだけ長くなるかを見る方式です。
デニールは、一定の長さがどれだけ重いかを見る方式です。
そのため、数字が大きくなったときの太い・細いの方向も逆になります。
- Q目付とは何ですか?
- A
目付(めつけ)とは、生地の一定面積当たり、または生地の全幅を含む一定長さ当たりの重さを見る考え方です。
代表的な表記に、g/m²で表す平米目付と、g/mで表す幅目付があります。
- Q鯨尺と曲尺は何が違いますか?
- A
曲尺(かねじゃく)は、建築や大工仕事で使われてきた基準で、1尺は約30.3cmです。
曲尺は「かなじゃく」ではなく「かねじゃく」と読みます。
鯨尺(くじらじゃく)は、反物や着物など、布を測る分野で使われてきた基準で、1尺は約37.9cmです。
同じ尺でも、実際の長さが異なります。
- Q反とは何mのことですか?
- A
反は、すべての繊維製品で共通する固定の長さではありません。
和装、洋装、生地の種類、工場、加工段階などによって、実際の長さが異なる場合があります。
取引時には、一反という言葉だけでなく、実際のm数を確認する必要があります。
- Q古い単位は、現在も使って良いのですか?
- A
日本国内では、長さや質量を取引または証明に用いる場合は、原則として法定計量単位を使用する必要があります。
一方、過去の設計、機械の目盛り、社内の工程管理、産地内の会話などに、鯨寸や曲寸などの考え方が残っている場合があります。
外部へ伝えるときは、cm、m、g、kgなどの法定計量単位を主たる表記とし、鯨寸などを添える場合は、参考値であることが分かる形で併記することが重要です。
あわせて読みたい記事
今回の記事とあわせて読むと、内容をより立体的に理解しやすくなる、おすすめ記事です。
また、以下のテーマは今後詳しく扱う予定です。
・番手がわからないのは、あなたのせいじゃない─ 番手とは?繊維業界で使われる糸の太さの単位をわかりやすく解説
・糸とは何か説明できますか?|繊維が糸になる意味を構造から整理する
今後、詳しく扱う予定のテーマ
・目付とは何か
・打ち込みと密度の違い
・筬と筬羽の見方
・反と疋の違い
・綛上げで使われる綛・本・丁
・整経と糸量の計算
・玉・梱・俵など、糸の荷姿と取引単位
次回|繊維産地とは何か
今回見てきた単位には、素材や工程だけでなく、産地ごとに受け継がれてきた設計方法、設備、取引の慣習も残っていました。
では、そもそも繊維業界でいう「産地」とは、どこまでを指すのでしょうか。
同じ地域に工場が集まっていれば産地なのか。それとも、紡績、撚糸、染色、製織、整理加工、商社などがつながり、一つの生産体制を形づくっていることに意味があるのか。
次回は「繊維産地とは何か」をテーマに、単なる地名では説明しきれない、産地の成り立ちと役割を構造から整理します。


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