- 産地(繊維産地)とは何か│最初に結論
- はじめに│工場が集まっていれば「産地」なのか
- 図解│繊維産地の基本構造
- なぜ繊維産地は生まれたのか
- 前回の「単位」とのつながり│産地は「ものさし」が受け継がれる場所
- 産地名と製品名はどうつながるのか
- 繊維産地は一つの巨大な工場なのか│会社をまたいでつながる工程
- 産地を見る時の基本│「集積」と「分業」
- よく知られる日本の繊維産地の例
- 日本の繊維産地をどう見るか│地名や製品名だけでは見えないもの
- 例外・誤解されやすいポイント│「地域の中ですべて作る」とは限らない
- 産地の強みは「技術」だけではない
- まとめ│繊維産地とは「分業と蓄積が地域に結びついた生産構造」
- よくある質問(FAQ)
- 次の記事│商社と産地の関係とは何か
- 用語辞典で詳しく読む
- 生地の状態・規格に関わる用語
- 産地の分業と一緒に理解したい用語
- 参考資料・出典
産地(繊維産地)とは何か│最初に結論
繊維産地とは、
特定の地域に、特定の素材・製品・工程に関わる企業や職人が集まり、分業・協業しながら継続的な生産体制を形成している地域を指します。
たとえば、一枚の生地が作られ、市場に届くまでには、
・原料や糸を用意する
・糸を撚る
・糸を染める
・経糸を準備する
・織る、または編む
・生地を染める
・整理加工をする
・検査する
・販売する
といった多くの工程があります。
これらを一社ですべて行うとは限りません。
繊維産地では、それぞれの工程を得意とする企業や職人が地域の中に集まり、仕事を受け渡しながら一つの製品を作ってきました。
そのため、繊維産地は単なる「繊維工場が多い場所」ではありません。
地域の中に、
・専門技術
・設備
・人材
・取引関係
・設計方法
・仕事の受け渡し方
・共通して使われる言葉や単位
といったものが蓄積され、一つの生産ネットワークとして機能していることが重要です。
なお、「産地」という言葉には、すべての繊維分野に共通する一つの地理的な範囲があるわけではありません。
市町村単位で呼ばれる産地もあれば、複数の市町村や都道府県をまたぐ産地もあります。
この記事では、繊維業界で一般的に使われる意味として、
地域に形成された繊維生産の集積と分業体制
という視点から「産地」を整理していきます。
はじめに│工場が集まっていれば「産地」なのか
「繊維産地」と聞くと、
尾州・遠州・播州・桐生・泉州・丹後
といった地名を思い浮かべるかもしれません。
確かに、産地には地理的なまとまりがあります。
しかし、
「この地域には織物工場が多いから産地」
というだけでは、繊維産地の特徴を十分に説明できません。
たとえば、一枚の織物を作る場合でも、機屋だけでは仕事が完結しないことがあります。
糸を撚る撚糸。
糸を染める糸染め。
経糸を準備する整経。
必要に応じて行うサイジング。
織物を作る製織。
生地を染める染色。
そして検反や出荷。
さらに、その生地を企画し、工程を組み立て、販売先へつなぐ役割もあります。
こうした専門工程が地域の中で結びつき、
「この仕事なら、あそこ」
「この加工なら、この会社」
「この生地なら、この設備」
と仕事がつながっていく。
この関係まで含めて見ると、産地とは地図上の色分けではなく、
ものづくりのつながりが地域に根づいた状態
であることが見えてきます。
図解│繊維産地の基本構造
織物産地を一例として簡略化すると、次のような流れになります。
【原料】 → 【紡績・製糸・紡糸など】 → 【原糸】 → 【撚糸・糸加工】
→ 【糸染め】 → 【整経・サイジングなどの準備工程】 → 【製織】
→ 【染色・整理加工】 → 【検反・仕上げ】 → 【生地・製品として出荷】
ただし、実際の流れは作るものによって異なります。
先染め織物であれば、糸を染めてから織ります。
編物であれば、製織ではなく編立が入ります。
タオルやデニム、絣、ちりめんなどでは、それぞれ特徴的な前後工程があります。
また、すべての産地にすべての工程がそろっているわけでもありません。
産地外へ加工を依頼することもあります。
一社が複数工程を行うこともあります。
さらに、この製造工程の横には、
・産元
・問屋
・商社
・生地メーカー
など、生産と取引をつなぐ役割を持つ事業者が存在する場合があります。
つまり産地は、
「工場を順番に並べたもの」
というより、
必要な工程と企業が結びついたネットワーク
として見る方が実態に近いのです。
なぜ繊維産地は生まれたのか
では、なぜ繊維産業は全国どこでも同じ形で発達するのではなく、
特定の地域に集まっていったのでしょうか。
理由は一つではありません。
地域によって、
・原料が手に入りやすかった
・染色や加工に必要な水を利用しやすかった
・気候や自然環境が生産に適していた
・農家の副業として製糸や織物が広がった
・地域に技術を持ち帰った人がいた
・商業地や消費地との取引があった
・特定の織機や設備が普及した
・同じ製品を作る企業が増えた
など、さまざまな条件が重なっています。
そして重要なのは、
一度技術や設備が集まると、その周囲に関連する工程も集まりやすくなる
ということです。
機屋が増えれば、糸を準備する仕事が必要になります。
糸を使う量が増えれば、撚糸や染色の仕事も必要になります。
生地が多く作られれば、整理加工や検査をする企業も必要になります。
取引量が増えれば、その生地を企画し、まとめ、販売する機能も発達します。
こうして、
一つの工程だけではなく、
前後の工程まで含めた生産のまとまり
が地域の中に形成されていきます。
産地とは、一日で作られるものではありません。
仕事が繰り返される中で、
設備・技術・人・言葉・取引関係
が長い時間をかけて積み重なった結果なのです。
前回の「単位」とのつながり│産地は「ものさし」が受け継がれる場所
前回の記事では、
繊維業界にさまざまな単位が残っている理由を整理しました。
これらは単なる数字ではなく、
工程、設備、素材、時代、取引方法が積み重なった「地層」のようなものだと説明しました。
では、その地層はどこに積み重なってきたのでしょうか。
その一つの答えが、
「産地」です。
同じ地域の中で長く仕事を受け渡していれば、
「この筬なら、この数え方」
「この品種なら、この密度」
「この糸なら、この荷姿」
「この加工なら、この幅を見込む」
といった共通理解が生まれます。
それは教科書に書かれた全国共通のルールとは限りません。
産地や品種、企業、設備によって異なる場合があります。
しかし、同じ生産体制の中で長く仕事をしてきた人たちにとっては、それが仕事を進めるための共通語になります。
前回の記事で見た「単位」が、産業の履歴書だとすれば、
「産地」は、その履歴が地域の中に蓄積されてきた場所と見ることができます。
単位の違いを追っていくと産地が見え、
産地の歴史を追っていくと、なぜその単位や設備、仕事の進め方が残っているのかが見えてくる。
二つは別々の話ではありません。
産地名と製品名はどうつながるのか
「尾州」
「遠州」
「播州」
「丹後」
といった名前を見ると、
それぞれ一種類の決まった生地があるように感じるかもしれません。
しかし、
産地名と、生地の種類や商品名は同じものではありません。
たとえば遠州産地では、綿織物を中心にさまざまな生地が作られてきました。
「遠州織物」という一つの織り方だけが存在するわけではありません。
一方、丹後ちりめんや久留米絣、泉州タオルのように、産地名と特定の製品や技術が強く結びついている例もあります。
播州では先染め織物が大きな特徴です。
尾州は毛織物を中心に発展してきましたが、現在の生産を「一種類のウール生地」だけで説明することはできません。
つまり、産地を見るときには、
「何という商品を作っているか」だけではなく、
・何の素材を得意としているのか
・どの工程が集まっているのか
・どのような設備があるのか
・どのような加工技術が蓄積されているのか
を見る必要があります。
産地とは、
一つの商品名ではなく、
その地域が何を、どのような生産体制で作ることを得意としてきたのか
を表す言葉でもあるのです。
繊維産地は一つの巨大な工場なのか│会社をまたいでつながる工程
繊維産地を理解するために、分かりやすい考え方があります。
それは、地域全体を、一つの生産ラインのように見ることです。
一般的な工場では、
一つの建物や一つの会社の中で、
工程A → 工程B → 工程C
と製品が流れていきます。
一方、分業型の繊維産地では、
A社で撚糸 → B社で糸染め → C社で整経
→ D社で製織 → E社で整理加工
というように、
会社をまたいで工程が進む場合があります。
それぞれの会社は独立しています。
しかし、一枚の生地から見れば、
複数の会社を移動しながら一つの製造工程を通過していることになります。
この仕組みには大きな強みがあります。
各社が特定の工程に専門化することで、
・特定設備を使い込む
・特定素材の扱い方を蓄積する
・細かな加工条件を調整する
・難しい仕事に対応する
といった専門性を高めやすくなります。
一方で弱点もあります。
一つの工程を担う企業がなくなると、
その前後の工程だけ残っていても、製品を完成させられない場合があります。
たとえば、糸は準備できる。織ることもできる。
しかし、その生地に必要な特殊な整理加工ができない。
となれば、従来と同じ生産方法を維持することが難しくなります。
産地にとって、一社の廃業がその会社だけの問題で終わらないことがあるのは、
企業同士が一つの生産体制としてつながっているからなのです。
産地を見る時の基本│「集積」と「分業」
繊維産地を見るときに押さえておきたい言葉が、
集積と分業です。
集積とは、
関連する企業、設備、人材、技術などが特定の地域に集まっている状態です。
繊維産地であれば、
・機屋
・撚糸業
・染色業
・整経業
・編立業
・整理加工業
・検査業
・機料や部品を扱う企業
・商社や産元
などが地域に集まることがあります。
一方、分業とは、
一つの製品を作る工程を、それぞれ専門の企業や職人が分担することです。
つまり、
集積は「集まっていること」
分業は「仕事を分けてつないでいること」です。
工場がたくさん存在していても、互いにほとんど関係がなければ、産地としてのつながりは弱いかもしれません。
反対に、それぞれ小規模な企業であっても、
仕事が頻繁に行き来し、設備や技術を補い合い、
生産方法について共通理解が形成されていれば、
地域全体として大きな生産能力を持つことがあります。
繊維産地の強さは、
会社一社の大きさだけでは測れません。
地域の中に、どれだけ専門性があり、それがどのようにつながっているか
を見ることが重要です。
よく知られる日本の繊維産地の例
日本には、素材や製品、工程の違いによってさまざまな繊維産地があります。
ここでは代表的な例をいくつか見てみます。
なお、以下は各産地の特徴を理解するために簡略化したものです。
実際には、それぞれの産地でここに挙げた以外の素材や製品も作られています。
尾州│毛織物を中心に発展した産地
尾州は、愛知県一宮市周辺を中心とする繊維産地です。
特に毛織物で知られています。
地域には、
・紡績
・撚糸
・染色
・製織
・編立
・整理加工
など、多くの専門工程があります。
尾州を理解するときに重要なのは、
「ウールを織る工場が多い地域」
というだけではなく、
糸から生地の仕上げまで、多くの専門工程が地域の中で分業・協業してきたことです。
素材、糸、組織、染色、整理加工を組み合わせることで、多様なテキスタイルを作ることができます。
尾州は、
特定素材に対する専門工程が地域内に積み重なることで産地が形成される
ことを理解しやすい例です。
遠州│綿織物を中心に多様な技術が集まる産地
遠州は、静岡県西部を中心とする繊維産地です。
古くから綿織物を中心に発展してきました。
地域には、
・糸の準備
・染色
・製織
・整理加工
などの工程が分業して存在し、
さまざまな綿織物が作られてきました。
また、
・別珍
・コール天
・浴衣地
など、特徴のある織物や加工技術とも深く関わっています。
ここで重要なのは、
「遠州織物」という一種類の生地があるわけではないことです。
遠州という生産基盤の中に、多様な織物を作る技術が蓄積されています。
遠州は、
一つの地域の中に異なる織物や加工技術が共存する産地
を見るうえで分かりやすい例です。
播州│先染め綿織物と「色柄を織る」技術で知られる産地
播州は、
兵庫県西脇市をはじめとする北播磨地域を中心に発展してきた繊維産地です。
播州を理解するときに中心となるのが、
先染めの綿織物です。
先染めとは、
生地を織ってから染めるのではなく、
あらかじめ糸を染め、
その色糸を組み合わせて生地を織る方法です。
播州織では、
染めた経糸と緯糸を使い、
・糸の色
・縞割
・織物組織
・打ち込み密度
などを組み合わせながら、
生地そのものに色や柄を作り込んでいきます。
代表的なのが、
ストライプやチェックです。
これらは、
白い生地の上から柄をプリントしているのではありません。
たとえば、
青い経糸。
白い経糸。
赤い緯糸。
白い緯糸。
といった色糸の配置を設計し、
それらを交差させることで、
織物そのものの構造として柄を作ります。
つまり播州では、
「どの色の糸を、どの位置に、どのように織り込むか」という設計そのものが、生地の表情につながっています。
そして、
この先染め織物を支えているのが、
産地内に蓄積された分業体制です。
糸を染める。
経糸を準備する。
サイジングを行う。
織る。
整理加工をする。
企画や販売につなぐ。
といった専門工程が地域に集まり、
それぞれの企業が連携しながら一枚の生地を作ります。
そのため播州の特徴は、
単に、
「糸を先に染めている」
ことだけではありません。
先染めした綿糸を使って多様な色柄を設計し、それを産地内の専門工程が連携して織物として形にできること
にあります。
シャツ。
ブラウス。
ハンカチ。
テーブルクロス。
など、
播州織は私たちの身近な製品にも幅広く使われています。
播州は、
先染め綿織物を軸に、色糸の組み合わせと織物設計、そして分業による生産体制を発展させてきた産地
として理解することができます。
富士吉田│細番手・高密度の高付加価値な織物で知られる産地
山梨県富士吉田市や西桂町などを含む富士北麓・郡内地域は、
古くから織物づくりが続いてきた産地です。
この地域の織物は「郡内織物」とも呼ばれ、
歴史的には絹を使った甲斐絹などで知られてきました。
現在の富士吉田周辺の織物を理解するときに注目したいのが、
・細番手
・高密度
・先染め
・小ロット
・多品種
という特徴です。
なかでも、
細い糸を高い密度で織り上げる技術
は、富士吉田周辺の織物を理解する重要なポイントです。
細番手の糸は、
太い糸に比べて扱いが難しく、
製織にも細かな調整が必要になります。
その細い糸を高密度に組み合わせることで、
軽く、
きめ細かく、
なめらかで、
繊細な表情を持つ生地を作ることができます。
さらに富士吉田でも、
糸を先に染めてから織る「先染め」の技術が長く使われてきました。
歴史的に知られる甲斐絹も、
こうした先染めの技術と深く関わる織物です。
ただし、
富士吉田の特徴を「先染め」だけで捉えると、
この産地の姿は十分には見えてきません。
先染めした細い糸を使い、
高密度で織り、
さらに多品種・小ロットにも対応する。
複数の高度な技術を組み合わせながら、多様な高付加価値織物を作ること
が、この産地を見るうえで重要です。
現在では、
ネクタイ。
裏地。
傘地。
ストール。
服地。
インテリア向け生地。
など、
用途の異なるさまざまな織物が作られています。
同じ産地の中でも、
ある企業はネクタイ。
ある企業は傘地。
ある企業は服地。
というように、
それぞれ異なる分野に専門性を持っています。
ここでも、
「富士吉田という一種類の生地」
があるわけではありません。
糸を撚る。
糸を染める。
経糸を準備する。
細い糸を高密度に織る。
仕上げる。
それぞれの工程と専門技術がつながることで、
多様な織物が作られています。
富士吉田は、
歴史的に培われた細番手・高密度の技術を軸に、多品種・小ロットの高付加価値な織物づくりへ発展してきた産地
として見ることができます。
北陸│化学繊維・合成繊維とともに発展した産地
石川県、福井県、富山県などを中心とする北陸地域は、
化学繊維・合成繊維を扱う産地として知られています。
天然繊維を中心に発展した産地とは、
扱う素材だけでなく、
必要となる設備や加工技術も異なります。
合成繊維の場合でも、
糸を準備する。
織る、または編む。
染める。
機能や風合いを付与する。
仕上げる。
といった複数の工程が必要です。
このことからも、
繊維産地は単純に、
「昔から織物を作っている地域」
という意味ではないことが分かります。
北陸は、
新しい繊維素材や設備の発展とともに形成・発展してきた産地
を見るうえで重要な例です。
丹後│絹織物と丹後ちりめんの産地
京都府北部の丹後地域は、絹織物の産地として長い歴史を持ちます。
代表的なものが、
丹後ちりめんです。
ちりめんでは、強い撚りをかけた糸などを使って生地を織り、その後の精練などを経ることで、表面に「シボ」と呼ばれる独特の凹凸が現れます。
つまり、特徴的な外観は製織だけで完成するものではありません。
糸の構造。
撚り。
織り方。
その後の加工。
これらがつながることで、最終的な生地になります。
丹後は、
産地の特徴が、一つの工程ではなく複数工程の組み合わせによって作られる
ことを理解しやすい例です。
三備│備前・備中・備後の技術が重なるデニム産地
岡山県から広島県東部にまたがる三備地域は、
デニムやジーンズ、学生服、ワーキングウェアなどで知られる日本有数の繊維産地です。
「三備」とは、
備前・備中・備後
という旧国名に由来します。
現在の地域で大まかに見ると、
備前側には倉敷市児島周辺、
備中側には井原市など、
備後側には福山市などが含まれ、
それぞれの地域で綿や藍、織物に関わる産業が発展してきました。
そして三備を理解するときに興味深いのが、
三つの地域が、まったく同じ繊維産業を発展させてきたわけではない
という点です。
もちろん地域や時代によって技術は重なっており、
「備前は縫製だけ」
「備中は製織だけ」
「備後は染色だけ」
と明確に分けられるものではありません。
それでも歴史を大きく見ると、
それぞれの地域には異なる得意分野や技術の蓄積を見ることができます。
備前│足袋から学生服・ジーンズへつながった「縫う」技術
備前側の代表的な地域の一つが、
倉敷市児島です。
児島では、
真田紐などの生産から足袋産業が発達しました。
明治から大正期にかけて足袋の生産が拡大し、
1906年には児島地域で足袋製造に動力ミシンが導入されています。
その後、洋装化によって足袋の需要が減少すると、
それまでに培われた、
・裁断
・縫製
・ミシンを使った量産
といった技術を生かし、
学生服や作業服などの被服生産へ転換していきました。
さらに、その技術は後の国産ジーンズ生産にもつながっていきます。
つまり備前・児島周辺では、
布を「製品として仕立てる」技術が長く蓄積されてきた
と見ることができます。
備中│備中小倉からデニムへつながった「織る」技術
備中側では、
井原市周辺が現在のデニム生地産地としてよく知られています。
井原では江戸時代から綿花や藍の栽培が盛んになり、
藍染めの綿織物が作られてきました。
明治時代になると、
「備中小倉織」
と呼ばれる厚手の藍染め綿織物が大量に生産されるようになります。
なかでも、
表面が藍色、
裏面が白色になる「裏白」と呼ばれる厚手の織物は、
後に日本へ入ってきたデニム生地と構造的にも近いものでした。
そのため、
それまで培われてきた厚地綿織物の製織技術が、
国産デニム生地の生産へとつながっていきます。
井原を中心とする備中では、
厚手の綿布を「織る」技術の蓄積が、現在のデニム生地生産につながった
と見ることができます。
備後│備後絣と藍染めから続く「染め」と織物の技術
備後側の代表的な地域が、
広島県福山市周辺です。
この地域では江戸時代から綿の栽培が行われ、
その後、
藍の栽培や藍染め、
綿織物の生産が発達しました。
特に有名なのが、
備後絣です。
備後絣は、
あらかじめ糸を染め分け、
その糸を組み合わせて柄を織り出す先染めの絣織物です。
そのため、
糸を染める技術と、
染めた糸を正確に配置して織る技術の両方が必要になります。
福山市も、
備後絣で培われた厚手生地の織布技術や藍染めなどの染色技術が、
現在のデニム産地として発展する背景になったとしています。
実際に備後では、
備後絣の染色・織布から始まり、
後にデニムへ事業を広げた企業もあります。
つまり備後では、
藍染めをはじめとする「染め」と織物の技術が、現在のデニム産業へ受け継がれている
と見ることができます。
3つの技術が隣り合っていたことが、三備の厚みになった
こうして見ると、三備地域を単に、
「デニムで有名な産地」
とだけ覚えるのでは見えてこないものがあります。
備前・児島周辺では、
足袋から学生服、作業服、ジーンズへとつながる、
裁断・縫製などの製品化技術。
備中・井原周辺では、
備中小倉などの厚地綿織物からデニムへとつながる、
製織技術。
備後・福山周辺では、
備後絣や藍染めなどから受け継がれてきた、
染色・織布技術。
もちろん、
現在の三備ではそれぞれの地域に染色、織布、縫製、整理加工、洗い加工などさまざまな企業があり、
この三つに単純に分けられるわけではありません。
しかし、
異なる得意分野を持つ繊維地域が隣接し、それぞれの技術を発展させてきたことが、現在の三備産地の厚みにつながった
と考えることはできます。
デニムも、単に織機で綾織を作れば完成するものではありません。
糸。
染色。
整経。
製織。
整理加工。
さらに製品になる場合には、
裁断。
縫製。
洗い加工。
製品加工。
など、多くの技術が必要です。
そして現在の三備地域には、
こうしたデニムやデニム製品の生産に関わる多くの工程が集積しています。
福山市デニムの歴史
私たちが普段目にする一本のジーンズの背景には、
「染める」
「織る」
「縫う」
「加工する」
という異なる専門技術があります。
三備は、
一つの産地の中にも地域ごとの歴史と得意分野があり、それらが重なり合うことで、現在の大きな生産ネットワークにつながっている
ことを理解するうえで、とても分かりやすい例です。
泉州│後晒しタオルで知られる大阪の産地
大阪府南部の泉州地域は、タオル産地として知られています。
泉州タオルの大きな特徴の一つが、
タオルを織った後に晒しを行う「後晒し」です。
タオルを織る際には、糸を扱いやすくするために糊などを使用することがあります。
そのままでは吸水性を十分に発揮しにくいため、
織り上げた後に晒しを行い、
糊や不純物などを取り除いて仕上げていきます。
簡略化すると、
糸を準備する → 織る → 晒す → 仕上げる
という複数の工程がつながって、私たちが普段使っているタオルになります。
つまり、
タオルの性能は、
「どう織ったか」
だけでは決まりません。
織った後に、
どのような加工を行うのか
まで含めて製品が作られています。
泉州は、
製織と後工程が組み合わさることで製品としての特徴が生まれる産地
を理解しやすい例です。
桐生│絹織物から発展した総合的な繊維産地
群馬県桐生市を中心とする桐生産地は、
古くから絹織物で栄えてきた産地です。
桐生では長い歴史の中で織物産業が発展し、
「西の西陣、東の桐生」
と呼ばれた時代もありました。
しかし、現在の桐生を、
「絹を織る産地」
だけで見ると、その構造の一部しか見えません。
地域には、
・企画、デザイン
・撚糸
・染色
・製織
・編立
・刺繍
・縫製
など、多くの工程に関わる技術が集積しています。
つまり桐生は、
歴史的には絹織物を重要な基盤としながら、
糸から生地、さらに製品化まで幅広い繊維技術が地域に蓄積してきた産地
と見ることができます。
一つの代表的な素材や製品から始まった産地が、
長い時間の中で周辺工程や新しい技術を取り込みながら広がっていく。
桐生は、そうした産地の変化を見るうえでも分かりやすい例です。
久留米│木綿の絣で発展した福岡の産地
福岡県の久留米市をはじめ、
広川町、筑後市、八女市などの筑後地域では、
久留米絣
が作られてきました。
久留米絣は、
糸の一部を染まらないように括るなどして染め分け、その絣糸を使って模様を織り出す木綿織物です。
そのため、模様は生地の表面に後からプリントするものではありません。
あらかじめ、
どの部分を染めるのか。
どのような絣糸を作るのか。
染めた糸をどの位置に配置するのか。
経糸と緯糸をどのように合わせるのか。
を考えたうえで、生地を作る必要があります。
つまり久留米絣では、
糸を準備する工程と、染める工程と、織る工程が強く結びついています。
この点は、
産地の特徴が「織機」だけで決まるわけではないことをよく示しています。
最終的に見える一つの柄の背景に、
図案・糸の準備・括り・染色・整経・製織・仕上げ
といった複数の技術があります。
久留米は、
一つの特徴的な織物を中心として、専門工程と技術が地域に蓄積してきた産地
として理解することができます。
高島│撚糸・整経・サイジングなど「織る前の工程」も産地を支える
滋賀県高島市周辺は、
綿織物や「高島ちぢみ」などで知られる繊維産地です。
しかし高島を見るときに注目したいのは、
出来上がった織物だけではありません。
その背景には、
撚糸、整経、サイジングなど、製織する前の準備工程が地域に蓄積している
という特徴があります。
高島周辺では、
原糸を準備して荒巻整経を行い、
最終的に正ビームへ巻いて機屋へ供給する仕組みを持っています。
また、高島は撚糸とも深く関係しています。
高島ちぢみの特徴である「シボ」には、
強い撚りをかけた糸が重要な役割を持っています。
滋賀県の撚糸産地では、
綿、麻、絹、化学繊維など幅広い素材に対応する撚糸設備が集積し、
高島ちぢみを支えてきた強撚技術は、その代表的な例の一つです。
これは、
産地を考えるうえで非常に重要な視点です。
私たちは産地というと、
「何を織っているのか」
「どんな生地が有名なのか」
に目を向けがちです。
しかし実際の織物づくりには、
織機に糸が掛かるまでにも、
撚糸・綛あげ・染色・糊付け・整経・サイジング・緯巻き
など、さまざまな準備工程があります。
すべての産地に、これらの工程が同じ形で存在するわけではありません。
だからこそ、
製品名として表に見えにくい準備工程の集積も、産地を成立させる重要な要素
です。
高島は、
「何を織っている地域か」だけではなく、
織るために必要な糸や経糸を、どのように準備できる地域なのか
という視点から産地を見ることの重要性を教えてくれる例です。
日本の繊維産地をどう見るか│地名や製品名だけでは見えないもの
ここまで、
尾州・遠州・播州・北陸・丹後・三備・泉州・桐生・久留米・富士吉田・高島などを例に
日本各地の繊維産地を見てきました。
しかし、
日本の繊維産地はこれだけではありません。
日本には、ここでは紹介しきれないほど多くの繊維産地がある
たとえば、
・福島県の会津木綿
・福島県川俣の絹織物
・福島県昭和村のからむし織
・山形県米沢の織物
・群馬県伊勢崎の織物
・栃木県足利の繊維産業
・茨城県・栃木県にまたがる結城紬
・埼玉県秩父の織物
・東京都八王子の織物
・山梨県大月・都留周辺の郡内織物
・新潟県十日町の絹織物・きもの
・新潟県小千谷の小千谷縮・小千谷紬
・新潟県南魚沼の塩沢紬・本塩沢
・新潟県見附・栃尾の織物・ニット
・新潟県五泉・加茂のニット
・滋賀県湖東の麻織物
・滋賀県長浜の絹織物
・京都府西陣の織物
・愛知県知多・三河の織物
・和歌山県和歌山のニット
・和歌山県高野口のパイル織物・編物
・愛媛県今治のタオルなど、
日本各地に、
異なる素材、製品、設備、技術を基盤とした繊維産地があります。
ここに挙げたものも、
日本の繊維産地のすべてではありません。
さらに細かく見れば、
同じ県の中に複数の産地が存在することもあります。
また、
一つの産地の中でも、
地域や企業によって得意とする素材や工程が異なります。
たとえば十日町では、
十日町絣や十日町明石ちぢみなどの先染め織物だけでなく、
後染めの友禅なども発展し、
現在では幅広いきものづくりを行う産地となっています。
高野口では、
パイル織物・パイル編物の技術が、
衣料だけでなく、
インテリア。
車両用資材。
寝装品。
など、さまざまな用途へ展開されています。
会津木綿のように、
地域の暮らしと密接に結びつきながら、
厚手で丈夫な木綿織物が受け継がれてきた例もあります。
つまり、
「繊維産地」と一口に言っても、
その成り立ちや現在の姿は一つではありません。
産地によって「強みの場所」は違う
同じ「繊維産地」という言葉で呼ばれていても、
産地によって、
ものづくりの中で特に技術が蓄積されてきた場所は異なります。
たとえば、
尾州では毛織物。
遠州では綿織物。
播州では先染め織物。
丹後では絹とちりめん。
三備ではデニムや縫製・製織・染色を含む幅広い技術。
泉州ではタオル。
久留米では絣。
北陸では化学繊維・合成繊維。
といったように、
それぞれ歴史的に得意としてきた素材や製品があります。
しかし、
ここで覚えたいのは、
「○○産地=○○製品」
という対応表だけではありません。
もう一歩踏み込んで、
その製品を作るために、どの工程の技術が地域に蓄積されているのか
を見ることが重要です。
たとえば、
泉州タオルを見れば、
製織だけでなく、
織った後の晒しや仕上げが重要であることが分かります。
久留米絣を見れば、
織る前の糸の準備や染色が、
柄そのものの設計に深く関わっていることが分かります。
丹後ちりめんを見れば、
撚糸。
製織。
精練。
といった複数工程の組み合わせによって、
生地表面の特徴が生まれることが分かります。
高島のように、
撚糸、整経、サイジングなど、
「織る前の準備工程」に大きな技術の蓄積を持つ産地もあります。
つまり、
産地によって、ものづくりの中で強みが蓄積されてきた「場所」が違うのです。
産地を知るとは「何が有名か」ではなく「なぜ作れるか」を見ること
産地を知るというと、
どうしても、
「尾州はウール」
「今治はタオル」
「三備はデニム」
のように、
地域名と代表的な製品をセットで覚えたくなります。
もちろん、
それは産地を知る最初の入口として大切です。
しかし、ITomapでは、
そこからもう一歩進んで考えます。
その地域では、
どのような素材を扱ってきたのか。
どのような設備があるのか。
どのような工程が集まっているのか。
どのような技術が蓄積されているのか。
企業や職人は、
どのように仕事を受け渡しているのか。
そして、
その地域だけでは足りない工程を、
どこが補っているのか。
ここまで見ることで、
「なぜ、その産地でその製品を作れるのか」
が少しずつ見えてきます。
産地とは、
有名な製品を作っている場所ではなく、
その製品を作るための技術・設備・人・工程が、長い時間をかけてつながってきた場所
でもあります。
ひとつの産地だけで、すべてが完結するとは限らない
そして、
ここまで産地を構造として見てくると、もうひとつ疑問が出てきます。
産地と呼ばれる以上、原料から仕上げまで、すべての工程が地域内に揃っている必要があるのでしょうか。
実際には、そうとは限りません。
次は、産地を理解する時に誤解されやすい
「地域の中ですべて作るとは限らない」という点を理解します。
例外・誤解されやすいポイント│「地域の中ですべて作る」とは限らない
繊維産地について理解するとき、
いくつか注意したい点があります。
産地の境界は行政区分と一致するとは限らない
産地は、必ずしも一つの市や一つの県だけで完結するものではありません。
歴史的な経済圏や企業間の取引関係によって、
複数の自治体にまたがる場合があります。
そのため、
「○○県=一つの産地」
とは限りません。
産地に全工程がそろっているとは限らない
「産地」と呼ばれていても、
原料から最終製品まで、すべての工程が地域内に存在するとは限りません。
一部工程を別の産地や地域の企業へ依頼することもあります。
重要なのは、
すべてを地域内で完結しているかではなく、
その地域を中心として特定の技術や生産体制が形成されているか
ということです。
一社が一工程だけとは限らない
分業が特徴とはいっても、
必ず一社一工程ではありません。
製織と企画を行う会社。
染色と整理加工を行う会社。
糸から生地まで複数工程を持つ会社。
製造だけでなく自社ブランドを販売する会社。
さまざまな形があります。
産地名だけで製品の仕様は決まらない
同じ産地でも、
素材。
番手。
組織。
密度。
織機。
染色方法。
整理加工。
によって、まったく異なる生地が作られます。
「尾州だからこの生地」
「遠州だからこの風合い」
と、一つに決めることはできません。
産地は閉じた世界ではない
現在の繊維生産では、
産地を越えて企業同士が連携することもあります。
ある産地で不足する工程を、別の地域の企業が担うこともあります。
海外から原料や糸を調達する場合もあります。
販売先は全国、あるいは海外まで広がります。
したがって産地とは、
地域内だけですべて完結する閉鎖的な仕組みではなく、
地域に専門性の中心を持ちながら、外部ともつながる生産ネットワーク
と考える方が実態に近いでしょう。
産地の強みは「技術」だけではない
繊維産地の強みとして、
「高い技術力」
という言葉はよく使われます。
もちろん技術は重要です。
しかし、産地の強さは、
一人の優秀な職人や一社の高性能な設備だけでは説明できません。
たとえば、新しい生地を作ろうとしたとき、
「この糸なら、この撚り方ができる」
「この経糸なら、この整経屋が扱える」
「この密度なら、この織機が向いている」
「この風合いなら、この整理加工を試せる」
と、
複数の専門性を組み合わせられること自体が産地の力になります。
さらに、
失敗した条件。
過去に使った糸。
設備ごとの癖。
加工による縮み。
仕上がりの変化。
といった経験も、
企業や職人の中に蓄積されています。
つまり産地に蓄積されるのは、
設備だけでも、
技術だけでもありません。
「誰に、何を、どの条件で頼めば形になるのか」という関係性そのもの
も、産地の重要な資産なのです。
まとめ│繊維産地とは「分業と蓄積が地域に結びついた生産構造」
繊維産地とは、単に繊維工場が多い地域ではありません。
特定の地域に、
・素材
・設備
・専門技術
・企業
・職人
・設計方法
・取引関係
・仕事上の共通語
が蓄積され、
それぞれの工程を分担しながら、一つの生産体制を形成している地域です。
そのため、
産地を見るときには、
「何県にあるのか」
「何という生地で有名なのか」
だけを見るのではなく、
どの工程があり、その工程同士がどのようにつながっているのか
を見ることが重要です。
前回の記事では、
繊維業界に残る単位を、
工程・設備・産地・取引の記憶が重なった「地層」として見てきました。
今回、その地層をもう少し広い視点から見てみると、
産地そのものが、
長い時間をかけて積み重なった一つの生産システムであることが分かります。
しかし、産地の生産構造が分かっても、それだけでは、
「仕事がどう動くのか」までは見えてきません。
そこには、製造工程とは別の「商流」があります。
柱記事シリーズの最後となる次回は、この視点から
産地と市場のつながりを見ていきます。
よくある質問(FAQ)
- Q繊維産地とは何ですか?
- A
繊維産地とは、
特定の地域に繊維製造に関わる企業や職人が集まり、
撚糸、染色、整経、製織、編立、整理加工などを分業・協業しながら生産体制を形成している地域です。
単に工場が多いだけでなく、
技術、設備、人材、取引関係などが地域内に蓄積されていることが特徴です。
- Q繊維工場が多ければ「産地」と呼べるのですか?
- A
工場の集積は産地の重要な特徴ですが、
工場数だけで決まるわけではありません。
各企業が工程を分担し、
仕事を受け渡しながら一つの生産体制として機能していることが、
繊維産地を理解する重要なポイントです。
- Q「集積」と「分業」の違いは何ですか?
- A
集積とは、
関連する企業、設備、人材、技術などが特定の地域に集まっている状態です。
分業とは、
一つの製品を作る工程を複数の企業や職人が分担することです。
繊維産地では、
企業が地域に「集積」し、
その企業同士が「分業」することで、
一つの生産ネットワークが形成されている場合があります。
- Q繊維産地の範囲は市や県と同じですか?
- A
必ずしも同じではありません。
産地は、
歴史的な地域、生産工程のつながり、企業間の取引関係などによって形成されるため、
一つの市町村だけの場合もあれば、
複数の市町村や都道府県にまたがる場合もあります。
- Q一つの繊維産地ですべての工程を行うのですか?
- A
必ずしもすべての工程を産地内で行うわけではありません。
産地外の企業へ一部の加工を依頼したり、
別の産地と連携したりする場合もあります。
産地とは、
完全に地域内で自己完結することではなく、
その地域を中心に特定の技術や工程の集積が形成されていることが重要です。
- Q産地名とブランド名は同じものですか?
- A
必ずしも同じではありません。
産地は生産地域や生産体制を表す言葉ですが、
ブランド名や製品名には、
別に定められた基準や商標などが存在する場合があります。
そのため、
「その産地で作られたもの」と、
「特定のブランド名を名乗れるもの」
は分けて確認する必要があります。
- Qなぜ産地ごとに得意な織物が違うのですか?
- A
産地ごとに、
歴史、原料、自然環境、設備、技術、人材、取引先などが異なるためです。
長期間同じ分野の仕事を続けることで専門技術や設備が蓄積され、
毛織物、綿織物、先染め織物、合成繊維、絹織物、タオル、絣など、
産地ごとの得意分野が形成されてきました。
- Q同じ産地なら同じ生地が作られるのですか?
- A
いいえ。
同じ産地でも、
使用する素材、糸、組織、密度、設備、染色方法、整理加工などによって、
さまざまな生地が作られます。
産地名だけで生地の仕様や品質を一律に判断することはできません。
- Q産地の一つの工場がなくなるだけでも影響がありますか?
- A
場合によっては大きな影響があります。
分業型の産地では、
一つの専門工程がなくなることで、
その前後の工程が残っていても従来と同じ製品を作れなくなることがあります。
そのため、
個々の企業だけでなく、
産地全体の生産ネットワークを維持することも重要になります。
- Q商社は繊維産地の一部ですか?
- A
商社と繊維産地の関係は、
一つの形に決まっているわけではありません。
商社が産地の企業へ生産を依頼する場合もあれば、
産元などが産地内の工程を組み立て、
その生地を商社が販売する場合もあります。
また、
機屋などの産地企業が自ら企画・販売を行い、
顧客と直接取引する形もあります。
重要なのは、
「どんな会社なのか」だけでなく、「その取引の中でどの役割を担っているのか」を見ること
です。
商社、産元、機屋、問屋それぞれの基本的な役割については、
ITomapの別記事
「繊維産業の4つの役割─『産元』『織元/機屋』『商社』『問屋』の違いをわかりやすく解説」
でも整理しています。
次の記事│商社と産地の関係とは何か
ここまでの記事では、
一枚の生地が作られる背景に、
多くの専門工程と、
それを担う企業が存在することを見てきました。
しかし、
製造工程を順番に並べただけでは、
繊維産業全体の構造をすべて説明することはできません。
たとえば、
【糸】 → 【染色】 → 【整経】 → 【製織】 → 【整理加工】
という製造工程があったとしても、
実際の仕事では、
「この生地を作ってほしい」
という注文が、
一番上の工程から順番に流れてくるとは限りません。
商社から機屋へ依頼が入ることもあります。
産元が糸を手配し、各工程へ仕事を依頼することもあります。
アパレルやブランドから企画が始まることもあります。
産地企業自身が生地を企画し、直接販売することもあります。
つまり繊維産業には、
生地が作られていく「製造の流れ」と、仕事が動いていく「商流」の二つがあります。
ここで、
「そもそも産元、機屋、商社、問屋は何が違うのか」
が気になった方は、
先にITomapのこちらの記事をご覧ください。
「繊維産業の4つの役割─『産元』『織元/機屋』『商社』『問屋』の違いをわかりやすく解説」
この記事では、
・産元は何をするのか
・機屋は何をするのか
・商社は何をするのか
・問屋は何をするのか
という、
繊維産業に登場するそれぞれの役割
を整理しています。
一方、次回の記事で見たいのは、
それぞれの役割そのものではありません。
登場人物が分かったところから、
さらに一歩進んで、
「その人たちの間を、実際の仕事がどのように流れているのか」
を見ていきます。
誰が企画するのか。
誰が注文を出すのか。
誰が糸を手配するのか。
誰が製造工程を組み立てるのか。
誰が在庫や販売の役割を持つのか。
誰が市場の情報を産地へ持ち込むのか。
そして、
産地で作られた生地が、
どのように産地の外にいるアパレル、ブランド、小売、そして消費者へつながっていくのか。
ここまで見ることで、
「織る会社」
「染める会社」
「売る会社」
を別々に覚えるだけでは見えなかった、
繊維産業全体の流れが見えてきます。
前回は、
工程が変われば使われる単位や「ものさし」も変わることを見てきました。
そして今回は、
それぞれの工程を担う企業が地域に集まり、
産地という生産ネットワークを形成していることを見てきました。
そして柱記事シリーズ最後となる次回では、
そのネットワークに、
注文・仕様・情報・代金・市場がどのようにつながっているのか
を見ていきます。
テーマは、
「商社と産地の関係とは何か」です。
ただし、
単に「商社とは何をする会社なのか」を説明する記事ではありません。
なぜ分業型の産地では、
生産工程とは別に、
仕事をつなぐ仕組みが必要なのか。
同じ一枚の生地でも、
誰が企画し、
誰が材料を手配し、
誰が製造を依頼し、
誰が販売するかによって、
仕事の流れはどのように変わるのか。
産地と市場は、
どのような線でつながっているのか。
最終回では、
これまで見てきた
・素材
・糸
・紡績
・撚糸
・織物
・編物
・染色
・整理加工
・単位
・産地
という一つ一つの知識を、
「ものづくりと市場をつなぐ流れ」
という視点から、
もう一度一本につないでいきます。
公開までもうしばらくお待ちください。
合わせて読みたい記事
今回の記事とあわせて読むと、内容をより立体的に理解しやすくなります。
関連記事1│なぜ繊維業界の単位はこんなに多いのか
・なぜ繊維業界の単位はこんなに多いのか│工程ごとに変わる「ものさし」を構造から理解する
今回の記事につながる前回の柱記事です。
産地ごとに残る設計方法や単位、設備との関係を理解しておくことで、
「産地に何が蓄積されているのか」
がより見えやすくなります。
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関連記事2│織物とは何か
・織物とは何か|糸が布になる仕組みを構造から理解する
繊維産地の中でも大きな役割を持つ、
製織の基本構造を整理した記事です。
経糸と緯糸がどのように布になるのかを理解しておくことで、
機屋や整経、染色、整理加工など、
産地内の工程のつながりが理解しやすくなります。
関連記事3│産元・機屋・商社・問屋の違い
・繊維産業の4つの役割─「産元」「織元/機屋」「商社」「問屋」の違いをわかりやすく解説
産地の中やその周辺で、
それぞれの企業がどのような役割を担っているのかを整理した記事です。
今回の記事で「産地という生産ネットワーク」を理解したあとに読むことで、
誰が作り、
誰が取りまとめ、
誰が流通や販売を担うのか、
それぞれの立場がより理解しやすくなります。
また、次回の柱記事「商社と産地の関係」を読む前の基礎知識としてもおすすめです。
用語辞典で詳しく読む
今回の記事で登場した言葉のうち、
個別に意味や使われ方を確認したいものは、
一部、ITomap用語辞典でも詳しく整理しています。
糸と織物設計を理解する基本用語
・番手
・経糸
・緯糸
・筬
・打ち込み
・鯨尺
生地ができる工程に関わる用語
・紡績
・撚糸
・整経
・製織
・織物
・編物
・染色
・整理加工
生地の状態・規格に関わる用語
・生機
・目付
・反
・疋
・バッチ
産地の分業と一緒に理解したい用語
・機屋
・先染め
・後染め
・絣
・ちりめん
・デニム
・コール天
・別珍
参考資料・出典
本記事の作成にあたり、以下の公的機関・自治体・業界団体等の資料を参考にしています。
・中国経済産業局ホームページ

・井原市公式サイト

・福山市公式ウェブサイト

・日本撚糸工業組合連合会
・高島織物工業協同組合
www.takashima-orikumi.shiga.jp
※各資料の内容を参照し、ITomapにて構成・整理しています。


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